奈良地方裁判所 昭和37年(行)2号 判決 1963年4月19日
奈良市三条町二五七番地
原告
株式会社 奈良充電所
右代表者代表取締役
金慶一
右訴訟代理人弁護士
池田良之助
奈良市登大路町
被告奈良税務署長
紺田暉夫
右指定代理人
大蔵事務官
福永三郎
同
網隆雄
同
馬場勉
検事
水野祐一
法務事務官
井野口有市
右当事者間の昭和三七年(行)第二号法人税更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、原告訴訟代理人は、「被告が昭和三六年五月三一日原告に対してなした原告の昭和三四年九月一日から昭和三五年八月三一日に至る事業年度の所得金額を二、二八四、四〇〇円、法人税額を八一七、一八〇円、重加算税額を三四七、五〇〇円とした更正決定のうち所得金額三六九、四八八円、税額一二一、九〇〇円を超える部分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因及び本案前の抗弁に対する答弁として次のとおり述べた。
(一) 原告は各種自動車部品の販売および充電等を目的として昭和二九年九月中設立された会社であるが、原告の昭和三四年九月一日から昭和三五年八月三一日に至る事業年度の所得金額を三六九、四八八円、法人税額一二一、九〇〇円とする確定申告書を昭和三五年一〇月三一日被告に提出したところ、被告は右申告に対し昭和三六年五月三一日原告の所得金額を二、二八四、四〇〇円、法人税額を八一七、一八〇円、重加算税額を三四七、五〇〇円とする更正決定をした。そこで原告は被告の右更正決定に対し大阪国税局長に審査請求をしたところ同局長は昭和三六年一〇月三一日付で右審査の請求を棄却する旨の決定をした。
しかしながら原告の右事業年度における総収入金は二七、七二三、三一五円で、これに対し総支出金は二七、三八二、九二七円であり、その差額金三四〇、三八八円に、総支出金中利益金とみるべき有給役員賞与金二九、五〇〇円を加え、一方控除すべき法人税過納額四〇〇円を差引いた三六九、四八八円が結局右年度の所得金額である。従つて被告の右更正決定は違法であるからその取消を求めるため本訴に及んだ。
(二) 審査請求棄却決定通知書が昭和三六年一一月二日は原告に到達したことは認めるが、国税通則法附則第一条但書の施行期日である昭和三七年一〇月一日が既に到来している以上、その出訴期間は判決当時の新法によつてこれを定めるべきであり、このことは民事訴訟法上の一船原則であるのみならず、国税通則法附則第一一条第二項において訴訟の場合を除外していることからみても明らかである。
結局法人税に関する抗告訴訟の出訴期間については法律の改正により一船行政事件の取扱をうけ三カ月から六カ月に伸張された訳であるから、前記通知書到達後六カ月以内に提起された本件訴は適法である。
二、(一) 被告指定代理人は、本案前の答弁として主文同旨の判決を求め、その理由として次のとおり述べた。
本件訴は出訴期間を徒過したもので不適法である。大阪国税局長は、昭和三六年一〇月三一日付で原告主張のように審査請求を棄却する旨の決定をなし、原告は同年一一月二日に右決定の通知書を受領したのであるから、当時の法人税法(昭和二二年法律第二八号)(以下単に従前の法人税法という)第三七条第二項により、本件訴が適法であるためには右審査請求棄却決定の通知を受けた日から三カ月以内である昭和三七年二月二日までにこれが提起されていなければならない。しかるに、本件訴は右出訴期間を徒過した後である昭和三七年四月二八日に提起されたものであるから不適法である。
(二)、本案について「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
原告が、原告主張の目的で昭和二九年九月中設立された会社であること、原告が被告に対しその主張の内容の確定申告書を提出し、被告が昭和三六年五月三一日原告主張どおりの更正決定をしたこと、大阪国税局長が原告からの審査請求に対し同年一〇月三一日付で審査の請求を棄却する旨の決定をしたことは認めるが、本事業年度における原告の所得金額についてこれを争う。被告の更正処分は被告の調査の結果により適法になされたものであるから本訴請求は失当である。
理由
本件訴の提起が適法であるか否かについて判断するに本件訴は原告の昭和三四年九月一日から昭和三五年八月三一日に至る事業年度の所得額等につき、昭和三六年五月三一日、被告税務署長によつてなされた更生決定の取消を求めるものであるところ、従前の法人税法第三七条第二項によれば審査の請求の目的となる処分の取消を求める訴は審査の決定の通知を受けた日から三カ月内にこれを提起しなければならないとされていたが、昭和三七年法律第六七号国税通則法の施行に伴う関係法令の整備等に関する法律第二条により従前の法人税法第七章再調査、審査および訴訟に関する規定(第三四条から第三八条まで)が削除され、これにかわり法人税その他の国税に関し昭和三七年第六六号国税通則法第八章不服審査および訴訟(第七五条から第八八条まで)に関する規定が設けられたので、その経過措置として国税通則法附則第一条但書により、国税通則法第八章(不服審査および訴訟)の規定は、昭和三七年一〇月一日から施行されるが、同法附則第一一条第一項をもつて従前の税法に規定する再調査の請求、審査の請求および訴訟については右施行期日の前日までは従前の税法の例によると規定された。そうすると本件において原告が大阪国税局長から審査請求を棄却する旨の決定通知書を受けた日が昭和三六年一一月二日であることは当事者間に争いなく、本件訴が昭和三七年四月二八日提起されたことは本件記録上明らかであるから、本件訴は従前の法人税法第三七条第二項に定める出訴期間三カ月を徒過した不適法なものといわなければならない。
原告は、民事訴訟法上の一般原則により判決当時の新法により出訴期間を定めるべきであると主張するが、一旦出訴期間の徒過により消滅した権利はこれを復活させる旨の遡及経過規定ないしは特段の事情がない限り遡及して復活するに由ないものと解するのが相当であり、本件の場合、右の遡及規定ないしはこれが遡及復活を認めるべき特段の事情は存在せず、却つて、国税通則法附則第一一条第一項は、前述のとおり昭和三七年一〇月一日の前日までは従前の税法の例によるとしているのであるから原告の右主張は採用できない。
また、国税通則法附則第一一条第二項が訴訟を除外しているのは、訴訟については昭和三七年一〇月一日の前日までの分は、右同条第一項で、その後の分は行政事件訴訟法の規定に従うことにより別段の規定の必要がないことによるものであつて、同条第二項で訴訟を除外していることが、原告主張のように国税通則法の施行期日当時現に係属中の訴訟を訴訟要件につき適法化することを意味するものと解することはできない。
結局法人税に関する控告訴訟の出訴期間については昭和三七年一〇月一日の前日までは右の経過規定により、その後は、行政事件訴訟法により三カ月となり、原告主張のように六カ月に伸張されたことはない。
よつて、本件訴は不適法として却下することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前田治一郎 裁判官 藤井俊彦 裁判官 謙田泰輝)